「こわしや我聞」総括 後編

か: まさか字数制限にひっかかるとはな。
べ: 7000字以上書く人滅多にいないと思うよ…。
か: しかもこんな中途半端なところで切らないと前・後編にすら収まらなかった。
べ: というわけで、「こわしや我聞」総括、後編は3-4節から始まります。
か: ここから読んでも意味がわからんから、先に前編を読んでおくように。
べ: そんな人いないって。
か: 前編読んで後編読む気なくした人ならいるかもしれないがな。
べ: 後編は前編とほぼ同じボリュームがあります。注意してください…。
か: では、「こわしや我聞」総括 後編、はじまりはじまり~。




3-4 工具楽我聞v.s.國生春菜

か: ここで我聞と國生さんを比較してみると、見事に互いを補い合っているのがわかるだろう。我聞のいかにもガキっぽい不完全な強さを國生さんの持つ本物の強さが補い、本当の優しさを知らなかった國生さんを我聞の揺るぎない優しさが救う。あまりにも不器用な我聞の力が効果を発揮するためには國生さんの力が欠かせない、と。
べ: 割れ鍋に綴じ蓋って、こういう事を言うんだねぇ。
か: もう一つ注目すべき点がある。國生さんは本当の優しさを知り、工具楽家の一員になった。これは本編から読み取ることができる。だが、我聞は本当の強さを知って工具楽屋の社長になったか、というとそこまでは言えない。これが國生さんをヒロインらしいヒロインにしている一番大きな要員だ。我聞が國生さんを勝ち取った形にはなっているが、國生さんが我聞を勝ち取った形にはなっていないんだな。
べ: それは要するに我聞が十分成長しきる前に漫画が終わってしまった、と…。
か: いや、恐らくこの終わり方は最初から予定されていたものだ。主人公の成長を最後まで描ききるというのもいいものだが、少年マンガの主人公は最後まで少年であってもいい。同様に、二人の男女が共に歩み寄って行く物語も魅力的だが、少年が少女を勝ち取る物語も少年マンガらしい、また違った魅力を持っているわけだな。

4 その他のキャラクターたち

か: お次はその他のキャラクターたちだ。
べ: いきなりその他扱いですかい。
か: この漫画でしかお目にかかれないキャラってのは、我聞と國生さんの他にはほとんど見られないからな。強いてあげるなら、やはり十曲才蔵か。
べ: 真芝第八研所長にして元呉服問屋の若旦那。我聞の鏡像キャラだね。
か: 普通鏡像キャラってのは正反対の性格にするもんなんだが、十曲は我聞同様バカでお人好しだった。しかも『もしも違う出会い方をしていたなら…』とか悲劇の主人公を気取るかと思いきや、その前にさっさと仲間になってしまうという、何とも気持ちのいいキャラクターだったな。我聞対十曲最終決戦の密度と勢いは長く記憶されるべきだろう。
べ: 他のキャラクター達も、おおむね気持ちのいい奴らばっかりだったねぇ。
か: ああ。どのキャラクターも自分で考え、出した結論に従って行動していたからな。黒幕である牙王や凪原も、あくまで自分で考えて自分で動く、自分で決めたことには自分から従うという姿勢が見えた。一言で言えば自分に正直だったってことなんだが、その姿勢さえあれば、何やってても大抵気持ちのいいキャラになる。
べ: 特に自分で決めたルール、自分の正義を貫くってのはいいよね。
か: もう一つこの漫画で顕著だったのは、キャラクターが良く動いていたってことだな。特にGHKの面々とか卓球部の面々とかは、空いたスペースにどん欲に入り込んでくれたから、自然と密度が上がって読み応えが出ていた。
べ: 日常シーンはそうだったねぇ。戦闘シーンはそのぶん薄い感じがしたけど。
か: 日常シーン、戦闘シーンという分け方は適切ではないな。よく見ると工具楽屋関係者→こわしや連合、卓球部→真芝、という順で活躍が減り、動きが悪くなっていく。これは恐らくキャラが固まりきっていなかったせいだろう。読み切りの頃から登場していた十曲は戦闘シーンでもいい動きをしてたしな。もし真芝の第一研から第八研まで、事前にキャラがしっかり決まっていれば、もっと読み応えのある戦闘シーンが作れたと考えられる。
べ: もしそうだとすると、連載前の準備が不十分だったってことになるのかな?
か: 連載中のライブ感に乗って描くってことも重要ではあるがな。こわしや連合をもてあまし気味だったり、ほっちゃんに見せ場が全然なかったり、と事前に綿密な計画がなかったことを伺わせる部分はいくつかあったな。
べ: その割に親父二人組は大活躍だったけど。
か: うむ。この二人は物語の根幹に関わるキャラだから、結構早くからキャラクターを温めていたんだろう。
べ: 実際のことは作者に聞いてみないとわからないけどねー。

5 「こわしや我聞」に足りなかったもの

か: さて、以上で「我聞」全体を俯瞰し終えたわけだが。
べ: ちょっと待てぇ!今までキャラクターの話しかしてないじゃん!
か: 漫画はキャラクターが全てだ。それ以外の要素などキャラクターを魅力的に見せるためのアクセサリーに過ぎん。
べ: そうやって自分の好みを宇宙の真理みたいに言うのはどうかと思うよ…。
か: それが俺様の美学だからな。言っておくが、俺様の言うことは全部自分の好みから来る偏見で、一般普遍の理論なんかほとんどないぞ。
べ: うわ、ここに来て全てを否定したよこの人。
か: そういうわけだから、特にここからの話は眉にツバをつけて聞いてくれ。
べ: 完全に趣味の世界に没頭する気ですかい。
か: 普段ならこういう野暮なことはしないんだが、今回はあまりにも惜しいからな。こうすればもっと俺様好みになって人気が出るんじゃないか、という話をしようと思う。
べ: いや、あんたの好みに合えば人気が出るという考え方からして間違ってるし。
か: それが俺様の美学だからな。
べ: もはや美学っていうより芸風だよそれは。

5-1 画力

か: 足りなかったものとして真っ先にあげなきゃならんのは、やはり画力だろうな。
べ: いきなりきついとこ突くなあ…。
か: まあ、新人と考えれば画力はこれから上げていくところなんだろうが、連載を通じて上手くなったって感じがあまりしないのは、ちょっとな。まだまだ線に力強さがない。
べ: 確かにねー。なんだろう、細いってのもあるんだけど…。
か: 微妙に居心地の悪い線が結構あるんだな。いい時はいいから、修行が足りないんだろう。
べ: 身も蓋もないことを…。デザインセンスについては。
か: 一言で言うと地味だな。二言で言うと地味にエロい。
べ: それで褒めてるつもりなんだから嫌になるよ…。
か: 失礼なことを言うな。地味なのにエロいってのはなかなか得難い武器なんだぞ。あからさまにエロいデザインでは逆立ちしても表現できない奥ゆかしさというものを、端的に見せられるんだからな。特に美少女の絶対数で他誌に遅れをとっているサンデーにおいては、貴重な才能と言える。
べ: でも人気が出るためにはある程度派手さも必要でしょうよ。
か: それはそうだ。だから、目立たせたいキャラは派手に、あまり前に出ないキャラは地味にという描き分けが肝心になってくるわけだ。そうすれば一般層の人気も地味キャラ好きの人気も独り占めってわけだな。特に地味キャラを好むマニア層というのは、画面上にある限られた情報から想像を膨らませるのが好きな人種だからな。そこで地味にエロいと想像が膨らみまくって人気爆発となる。「我聞」が特定の層に受けた理由もおそらくその辺にあるんだろうな。
べ: 『エロい』って言葉を文字通りに解釈すると、ものすごく堕落した思想になるね。
か: ああ、もちろんここで言う『エロい』とは直接性的描写を求めているのではない。現実でもセックスアピールの方法が直接的な露出に限らないのと同様、性的な描写や肌の露出などなくてもエロティシズムを醸し出すことは可能だ。
べ: いや、もちろんって言うなよ。普通そうは思わないよ。
か: そうか?まあとにかく、「我聞」の絵が持つエロさは非常に魅力的なので、それを大事にしつつレベルアップして欲しいってことだな。

5-2 説得力、ハッタリ

べ: 二つ目は、テンションが下がるという評価が多く見られたバトルシーンに関してだけれども。
か: うむ、戦闘時の演出に説得力が無かったということは言えるな。まず仙術のルールが曖昧だったし、真芝の兵器にも現実味がなかった。真芝を筆頭とする悪役集団の、悪事を働く動機が十分描写されていなかったあたりも興を削ぐ結果になっていたな。
べ: 小さい子供ならともかく、ある程度の年齢に達してると結構辛い面が目立ったね。
か: 問題はそこだ。俺様も、もっと緻密で説得力のあるバトルシーンを描いてくれたら、もっと面白い漫画になるのになあと、最初は思っていた。が、クライマックス直前の真芝第一研突入作戦を見て、緻密さだけが説得力を生み出すものではないと気づいたのだ。
べ: それが見出しにあるハッタリというわけですか。
か: そうだ。いきなり飛行機が出てきたときはひっくり返ったが、その飛行機からトラックが出てきたときは思わずカッコイイと思ってしまった。ファーストガンダム世代のオッサンがGガンにハマったかのような現象だな。
べ: その例えを理解できる人は限られてると思うんだけど。
か: 要するに童心に返ったというか、理屈抜きの格好良さというものに再び気づいたんだな。どんな漫画でも、あり得ないことを描かなければ面白くないから、あり得ないことをいかにありそうに描くかということが重要なことは確かだ。そこで緻密に練り上げられ、計算の上に成り立つ虚構、というものももちろん面白いが、それだけが正解ではない。要はそうなるのがふさわしいと読者に思わせることができれば何でもアリなんだ。普通設定が大ざっぱだったり矛盾したりしていると、説得力がなくなってしまうものなんだが、勢いとケレン味で説得力を持たせるということもできる。
べ: うーん、なんだか雲をつかむような話だなぁ。
か: 理屈抜きの格好良さを理論的に説明しろという方が無茶だ。そもそも、理屈抜きで読者を納得させるというのはそんなに簡単な事じゃないし、こういう漫画は読む人を選ぶから、緻密さも重要だ。ただな、最近どうも漫画全体が理屈っぽくなっていってる気がするからな。たまにはぶっ飛んだ漫画もあっていいと思うわけだ。
べ: ぶっ飛んだ漫画ねぇ。結構ある気がするけど。
か: そう思う方は一度チャンピオンを読んで、半端なくぶっ飛んでる漫画というものに触れてみる事をお勧めする。ぶっ飛んだ漫画はチャンピオンのお家芸だからな。ひょっとするとはまるかもしれないぞ。
べ: チャンピオンで読めるなら別にいいじゃん。
か: いいんだけどな。でも他にもあっていいだろう。地味な絵でぶっ飛んだ展開というのも新鮮だったしな。
べ: ところで、緻密な理論とぶっ飛んだケレン味を両立させるのは無理なの?
か: 可能だが、それが最善だとは考えない方がいいな。理屈抜きの漫画の滑稽さも、地道な漫画の安心感もそれぞれに良いものだ。
べ: 話を「我聞」に戻そう。クライマックスのぶっ飛んだ盛り上がりが最初から欲しかったってことでいいかな?
か: まあそういうことだな。もともと金庫に155ミリ砲とか、「ひっくり返せば車は止まる!」とか、ケレン味は結構あったんだが、勢いが足りなかったな。もっとたたみかけるような、スピーディーな展開が欲しかったな。

5-3 スピード感と密度

べ: でも、日常シーンのゆったりした展開の方が人気があったみたいだけど。
か: それは違うな。むしろ「我聞」の日常シーンにこそ、たたみかけるスピード感があったんだ。ただ、そのスピードが物語を進める方向に行かず、高密度の小ネタという形で現れたわけだな。
べ: つまりテンポ良く繰り出される小ネタが我聞の持ち味だった、と。
か: そのとおりだ。その点戦闘シーンでは、小ネタの密度が足りなかったために、勢いも無くなってしまった。試しにレギュラーキャラ数を数えてみると、工具楽家4人(我聞含む)、卓球部9人(我聞・國生さん含む、会長含まず)に対して工具楽屋5人(我聞・國生さん含む)。戦闘シーンの長さや指揮車と突入部隊でステージが分かれたことを考えると、明らかに少ないな。あと、敵もだいたい一人と少なかったし、キャラもそんなに立ってなかった。敵にしろ味方にしろ、ちょっと出し惜しみしすぎた感がある。
べ: じゃあ、キャラを出すタイミングがもっと早ければよかったわけ?
か: そうだ。それに、一人ずつ小出しにするんじゃなく、二、三人まとめて出す方がよかったな。例えば第一巻の最後で凪とジャンゴウが登場するが、あそこでジャンゴウでなく十曲才蔵を出しても問題ないはずだ。ついでに言えばその前に出てきた装甲車はたぶん第四研製だから、あそこでルドルフ本条がチラっと顔出ししといても良かっただろう。
べ: うわ早っ!
か: こわしや連合にしても、第二巻でさなえさんが出てきた時、一緒に番司も連れてくるくらいにして欲しかったな。序盤にうまく勢いがついていれば、もっとハイテンションでテンポのいい漫画になっていただろう。

6 次回作への期待

べ: 長らくおつきあい頂きました「こわしや我聞」総括、最後は藤木俊先生の次回作はどんなのがいいかを検討してみます。
か: 大きなお世話だな。
べ: それ言い出したらこの文章全部そうだよ。
か: それもそうだな。前述のとおり、作者の小ネタが見たいから、次回作はキャラがいっぱい出てくるコメディータッチのものがいいと思うぞ。
べ: となるとやっぱりラブコメですか?
か: いや、ラブコメもいいんだが、デザイン以外の点でケレン味が出しにくいという弱点がある。あれだけハッタリの効いたバトルシーンが描けるんだから、それは惜しい。というわけで、俺様はスポ根を推すな。
べ: またえらい角度から飛んでくるねえ。
か: スポ根はいいぞ。戦う理由なんかいらないから悪い奴を出さなくていい。これはつまり敵役ですら小ネタ能力を発揮できるということだから、かなり密度が上がりそうな気がする。他にも、日常とバトルが同一線上に並んでるから、キャラクターを有効活用できるし、基本的なルールや駆け引きの構図が既に完成してるから、アイディアも湧きやすいしな。
べ: けど、スポ根だと美少女濃度が…。
か: 下がるな。正直それが一番ネックだ。だから純正スポ根じゃなくて部活ものみたいな感じがいいかもしれない。スポ根は試合が長くなりがちだから、どれだけ試合の醍醐味を見せつつ短くまとめるかが難しいところだが、まあそこは頑張ってもらうとして、小ネタと必殺技が乱れ飛ぶ熱血スポーツクラブコメディでどうだ?
べ: 今さらっと問題点流した!?
か: まあ今一番の問題点はサンデーにスポーツ漫画が溢れかえってるから、しばらく新連載のスポーツものは無いだろうってことだしな。
べ: うおーい!帰ってきてもらう気ゼロですか!?
か: といったところでまた来週。
べ: だから来週はないって!
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by kabehouse | 2005-12-28 15:24 | 本棚
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