「神のみぞ知るセカイ」スペシャル・輪舞-Revolution編

各方面に波紋を起こしている「神のみ」ですが、案外その少年マンガ界における位置づけについては語られていません。そこで今回は、少年マンガから「神のみ」について考察してみましょう。

1.DQ v.s. FF
といいつつゲームの話から入ります。わかりやすい例として。

電源系2Dロールプレイングゲーム、つまり日本人が一般的に想像するRPGには、ドラゴンクエスト型(以下DQ型)とファイナルファンタジー型(以下FF型)があります。DQ型はプレイヤーキャラクター(以下PC)が画面に表示されずに敵のグラフィックだけが表示されるもの、FF型はPCと敵が並んで表示されるもの、というのが一般的に言われる区別ですが、より一般化して、PCよりも世界を描くことを優先するものをDQ型、世界よりもPCを描くことを優先するものをFF型と呼ぶことにします。シリーズを通して見た場合、DQ型が似通った主人公と異なる世界観を持ち、FF型が似通った世界観と異なる主人公を持つのも特徴の一つ。これは先の定義から考えれば当然の結果でしょう。

2.時代劇 v.s. 現代劇
この、DQ型・FF型という区別は、文壇においては時代劇・現代劇として現れます。時代劇・現代劇の本来の定義はその名のとおり、舞台背景が現代なのか近世以前なのか、ということなのですが、時代劇は現代が舞台でないがゆえに世界を描く物語が多く、現代劇は現代が舞台であるがゆえに登場人物を描く物語が多いのです。

この理屈は順に考えればわかるでしょう。現代が舞台でない場合、読者は舞台背景を良く知りません。ならば舞台背景を知ることそのものが知的快感であり、舞台背景を語ることそのものにある程度の比重をおく必要があります。さらに、読者は劇の結末をある程度知っています。例え知らなくても、過去の出来事を描く以上、事実を曲げることは出来ません。ですから劇は予測される結末に向かって進まざるを得ず、登場人物の行動は読者の知識、あるいは予測から大きくは外れられないのです。対して現代が舞台である場合、読者は舞台背景を良く知っているので舞台背景を詳細に語る必然性はありません。一方劇の結末は誰も知らないので、登場人物がいかなる行動をとるのかに視線が注がれます。

このように、時代劇≒筋書きがある程度決まっていて世界観を詳細に描く、現代劇≒世界観はある程度決まっていて筋書きを重点的に描く、という図式が出来上がっています。

3.劇画 v.s. 漫画
ようやく漫画にたどり着きました。ご存知のとおり、劇画はリアルな画風を持つ新しい漫画として登場した表現です。劇画=リアル、漫画=デフォルメという関係から、劇画は時代劇に、漫画は現代劇に向いていました。「ゴルゴ13」「コブラ」など、例え舞台としては時代劇でなくても、時代劇同様に一貫したヒーロー像と筋書きを持ち、むしろ主人公が乗り込む舞台そのものを詳細に描く作品が劇画には多く、「ジャングル大帝」「ドラえもん」など、舞台背景よりも主人公の活躍に重きを置く作品が漫画には多いのです。

このことは、壁流少年マンガ仮説により別の方向からも説明できます。少年マンガとは、葛藤から対決への転換であり、世界を人物へとシンボライズすることで主題を映像化するものです。劇画とは象徴的な表現手法であった漫画をより写実的にしていこうとする流れであり、世界は世界のままに描かれるので、ヒーロー対ライバルではなく、ヒーロー対世界という図式をとることになります。結果、狭い子供の世界から離れ、より広い世界あるいは架空、過去の世界を舞台に隠された部分を描くようになりました。このようにして漫画は子供だけのものではなくなり、子供向けのマンガと大人向けの劇画とに二分化していったのです。

4.セカイ v.s. 少年
そこで本題の「神のみ」ですが、見た目は子供向けのマンガでありながら、その構造は完全に劇画調であり、時代劇であると言えます。なぜ現代を舞台にした、本来なら主人公の心の動きに最大の焦点が置かれるはずのラブコメに、時代劇の構造を持ち込むことができたのか。その根本的な理由は、駆け魂が抜けた少女は記憶を失うという設定でも、主人公が現実の女性に興味がない(と言っている)という設定でもありません。主人公をギャルゲー好きにした真の狙いは、読者から遠いところにある女性達を、遠いところに置いたまま描くことにあるのです。あくまで主人公は狭い子供の世界にいたまま、その狭い世界の未知なる部分に身を投じて戦う。それが「神のみ」の図式です。ギャルゲーはあくまでも得体の知れない少女達と戦うためのサイコガンに過ぎず、作者が本当に描きたいのは少女達そのものなのです。

学園を舞台にして時代劇を描く「神のみ」が、果たして思春期の読者の心を捉えるのか、それとも結局喜ぶのは大人だけなのか。その結末はまだ見えませんが、ひょっとしたら「神のみ」は、ラブコメを革命する力を秘めているのかもしれません。

後編では「神のみ」に登場する少女達について考察したいと思いますが、それにはまだサンプルが足りませんので、先に前編だけを書くことにしました。では、いずれ後編でお会いしましょう。
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by kabehouse | 2008-05-30 08:55 | 少年サンデー
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